辻正信

ここで辻正信の士官学校時代のエピソードを書きます。
初冬の寒い日に辻が中隊を率いて演習を始め、夕方に最後の突撃を命じたときのことです。
先頭のほうがかたまって動かなくなります。幅5メートルほどの溝川に泥水がたまっているため、跳躍できずにいたのでした。近くに橋もありません。深さもわかりません。皆が躊躇していたのでした。ここに駆けつけた辻は「こうするんだ」と生徒の腕をとってスクラムを組み、溝川の中へ跳び込みます。水深は1メートルもなかったのですが、泥にはまり胸のあたりまで気味悪くつかってしまいました。それでも生徒は這い上がりましたが、体中悪臭がしていました。
辻は生徒を並ばせ
「他を救おうとすれば自らその中に入れ。岸に立って自分は濡れずに助けようとしても助けられるものではない。渦中に入って助けられなければ自分もともに死ぬ。」
と訓示したとのことです。

辻は生徒の写真を全部見て、顔の特徴を覚えたとのことです。そして、初対面の生徒の名前をいきなり呼んだとのことです。これが辻の部下掌握術でした。
辻の中隊は他の中隊からもうらやましがられてとのことです。